遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 そうでなくても『亜由美は大人だから』『しっかりしているから』
 その言葉だけで片付けられてしまうことは今までもたくさんあった。

 今回もそのうちの一回に過ぎない。だから大丈夫。
 そう言い聞かせながら飲み物は買わず、席に戻った亜由美だった。

「あれ? 杉原さん飲み物を買いに行ったんじゃなかったの?」

 手ぶらで帰ってきた亜由美に奥村が首を傾げる。その可愛らしさを見て亜由美はため息が出そうだった。

「私、融通利かないからダメなんでしょうか?」

 しょぼんとしてる上に、飲み物を買いに行ってきますと席を外した亜由美が手ぶらで帰ってきたのだ。

『ダメなんでしょうか?』と奥村を見る亜由美の目元はアイシャドウが綺麗に施されていて、自前の長いまつげがぱしぱししている。

 今すぐにでも化粧品ブランドのモデルにもしたいくらいの綺麗な瞳だ。
 つややかできめ細かく綺麗な肌としっかり手入れされたロングヘア。顔立ちも大人っぽく経理部では亜由美に憧れている男女も多い。

 本人だけがなんのコンプレックスなのか、自分は可愛くないと思っているようなのだ。
 その真面目なところも含めて周りはみんな評価しているというのに。

「なにか、あったの?」
「リフレッシュルームで……うるさい奴って言われていました。十年目くらいの貫禄があるって」

「もしかして、一条?」
 奥村の質問にこくりと亜由美は頷く。

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