遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 鷹條の場合はまず係長である久木の押印をもらい、次に課長、部長、局長にまで押印をもらわないといけない。

 久木はダメだというタイプではないが、課内の状況に応じて課長に認可を降ろしてもらうのが一番ハードルが高い。しかし今回はその課長が鷹條に書類を差し出してくれたのだ。

 なかなかないことだった。
 それほどまでに今回の功績は大きかったということなのだろう。

 ちらりと向かいの久木を見ると、苦笑していた。
「課長がいいと言ってるのに、私がダメだとは言えません」
「近場に……します。なにかあれば呼んでください。亜由美はそういうの分からない人じゃないです」

 鷹條が言うと、みんなが微笑ましそうになる。
 美男美女のお似合いカップルだと評判だし、きっと怖かっただろうに一生懸命協力してくれた立役者でもあると聞いているのだ。
 みんな心から鷹條のプロポーズの成功を祈っていた。

 ◇◇◇

「りょ、旅行っ!?」
 駅前の居酒屋で二人で食事をしていたら、鷹條が「急なんだけど、近いうちに旅行に行かないか」と言ったのだ。

 以前デートした時に旅行は許可がいるから事前に計画しなくてはいけないと鷹條が言っていたことを亜由美は覚えていた。

「旅行は許可がいるって言ってたよね?」
< 170 / 216 >

この作品をシェア

pagetop