遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 確かにいろいろありすぎたから先のことを考えていなかったけれど、結婚となればもちろんお互いの両親への挨拶は必要だろう。

 すっかり、頭から抜けていた。
 そう言えば、鷹條もマンションに出入りすることも多くなっていたのに、両親に報告をしていない。

「私も両親に連絡しますね」
「え? いたのか!?」

 ──え? いますけども?

「あ、いや……あの、前に家族はいないと亜由美が言うから、てっきり亡くされているのかと」
 確かにケガをした時、病院で家族はいないという話をした覚えはあるが。

「私の言い方が悪かったのね。両親はすごく元気で海外にいるの」
「それは、俺の方こそ悪かったな……」

 亜由美は思い出した。
 あの時、もしかして鷹條が誤解しているかもと気づいてはいたのだ。けれどこんな関係になるなんて思わなかったから、否定する機会もないままここまできてしまった。

 あれから二人の関係はとても変わっていた。
 ふふっと亜由美の口元に笑みが浮かぶ。
「亜由美……?」
「公僕だから、なんて言っていた頃からずいぶん変わったね」
「そうだな」

 きっとこれからだって鷹條は困っている人がいたら自然に助けるだろう。
 そういう人だ。

「私も両親に紹介していいのかな?」
「もちろんだ。ご存命でよかったよ。会うのを楽しみにしてる」
 
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