遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「お兄さんもいたのね……」

「近くに務めているから、以前はよく一緒に食事にも行ってた。最近はお互い忙しくて顔を合わせない。男兄弟なんてそんなものだよな。あ、だから実家は両親しかいなくて、兄とは今度会えるように計らうよ」

 鷹條がプライベートな話をこんなにたくさんしてくれることはあまりなかったかもしれない。
 話を聞いているだけでも新しいことばかりで、あっという間に旅館に着いてしまった。

 鷹條が予約してくれたのは外観が和風でエントランスを入ると和モダンとも言えるインテリアが柔らかい雰囲気の旅館だ。

 しかも仲居に案内された部屋はガラス張りの廊下から石畳の通路を通って入る離れだった。案内の途中、見ていると全ての部屋が離れになっている造りだった。

「亜由美?」
「すごく、素敵な旅館だね」
「せっかくだからな」

「うちは全部のお部屋が離れになっておりますので、静かにお過ごししてだけるとご好評をいただいているんです。ごゆっくりお過ごしくださいね」
 そう言って丁寧に仲居は頭を下げる。

「ありがとうございます」
 鷹條がお礼を言うと、にっこり笑って部屋を出ていった。
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