遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 白濁してとろっとしたお湯は美肌の湯として有名らしく、鷹條は亜由美の肩に手で時折お湯を掬ってかけてくれていた。

「無茶させたかも。ごめんな?」
 亜由美は首を横に振る。
「いいの。私も千智さんを独り占めしたかったから」

 ちゃぷっとお湯の音をさせて、鷹條が亜由美をお湯の中でふわりと抱きしめる。
「独占してくれ。亜由美のことも独占したい……まだこのままずっとこうしていたいけど、今日は実家か……」

 鷹條からは軽いため息が聞こえた。それには亜由美もくすっと笑ってしまう。
「行きましょうか?」
「そうだな」

 温泉は正しく効果があったようで、先ほどは立てなかった亜由美だが、しばらく浸かっていたら立つことができるようになっていた。
 ──すごいなぁ、温泉……。


 亜由美は車の中でもつい左手薬指に目がいってしまうのを止めることができなかった。

 そして先ほどから何度も繰り返している質問を再度鷹條に投げかける。
「私、おかしくない?」

 同じ質問の繰り返しにも鷹條は笑って答えてくれていた。
「可愛いよ」

 落ち着いた雰囲気の紺色のワンピースを選んできたので華美ではないはずだ。

 胸元にはパールの一粒ネックレス。これは母からプレゼントされたものでお守りのような気持ちで着けてきたものだった。
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