遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 亜由美がぺこりと頭を下げると、お日様のような明るい笑顔で部屋の中に招かれる。
「可愛い! すごく素敵な方ね」
 にこにこととても素直に褒められて、亜由美は照れくさくなってしまう。

 部屋の中に入って気づいたのだけれど、奥の方がなにやら騒がしい。複数の人がいる気配がした。

 その奥の部屋から鷹條の父らしき人がひょいっとこちらに顔を出す。
「おー、来たか! 彼女もいらっしゃい」

 おいでおいでと手招きされていた。
 とてもフレンドリーな一家のようだ。

 鷹條を見ると苦笑している。
「騒がしくてごめん。多分人が来ているんだ」
 ガヤガヤと騒がしい雰囲気が廊下にまで漏れている。

「息子なんだ。今日は嫁さんになる人と一緒に来てくれて」
 父は部屋の中にいる人に向かって話しかけているようだった。

「えー、じゃあ帰りますよー」
 そんな声が聞こえてくるのに、鷹條が声をかける。

「かまいませんよ。僕らは後でいいので、どうぞごゆっくり」

 すると奥の部屋から苦笑いの表情の父が出てくる。それを見て(あ、千智さんのお父さんだ)と亜由美は確信した。
 笑った顔がすごく似ている。

「落ち着かなくて、すみません。千智の父です」
 亜由美は丁寧に頭を下げる。

「お忙しいところ、こちらこそ申し訳ございません。杉原亜由美です」
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