遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 言われてみれば、緊急時に対応しなければいけない立場で、電車が停まっているから行けませんというのは言い訳にはならないのだなと分かる。

「こうやって、街を守ってくれてるのね……」
「まあ、そうだな」

 確かに子供心にもそんな祖父や父親を間近で見ていて、尊敬の対象となり憧れるのも亜由美には理解できた。

「だから、警察官だったの?」
「まあ……そうだな」

 鷹條は少し眩しそうな顔で警察署を見ていた。
「今の父のような立場だと夜昼構わずに警電が鳴る。都度対応しなければならないから、ほぼ休みはあってないようなものだ。旅行なんかももちろん行けない」

「警電?」
「警察電話。警察の業務専用通信回線の電話だよ。警察内部では警電って言って、会社でいう内線電話みたいな感じだな。署から連絡があることもあるし所轄管内からも管区からも連絡がある。父は寝る時も警電は枕元に置いてるよ」

 鷹條の説明だとその警電というのは官舎に回線として敷いてあることになる。
 鷹條の父はいつ鳴るか分からないその回線にいつでも対応できるようにしているということなのだろう。

「すごいのね……」
 亜由美は知らなかった。そんな風にして自分達が守られていたなんて、聞かなかったらきっと知らないままだっただろう。

 けれどきっと鷹條は子供の頃からそういう環境だったのだ。
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