遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 ──ふぅ……。
 帰りの電車の中で窓の外を見ながら亜由美はため息をついた。

 今日は朝から最悪だった。
 朝は遅刻しそうになっただけだったのに、変な男性に捕まって遅刻になってしまうし、出社したら自分の悪口まで耳にしてしまった。へこむ。

 しかも締め日だった今日に限って、日中に処理した内容に変更があったせいで大幅に残業になってしまった。

 夕食代わりに会社が入っているビルの中にあるコンビニでおにぎりを買って食べたけれど、食べたかどうかも分からないくらい、満足感はなかった。

 ──甘いもの、食べたい。
 あまりにも色んなことがありすぎて、なにやらぐったりしていたのだ。

 こんな日は甘いものに限る。
 駅前で一番近いコンビニに入ると、亜由美は真っ先にデザートの棚に向かった。そうして衝撃的なものを目にする。

 それはすっからかんのデザートの棚だ。
 もうすでに泣きたくなってきた。

 しょんぼりとしながら何も買わずに亜由美は店を出る。
 とぼとぼと歩いて少し経った時だ、ガツっという感覚が足を襲って、靴が脱げる。

 靴が脱げたのはヒールが道路の溝にはまったからだった。
 しかも、どんな風にはまったのか、しっかりヒール部分が溝に埋まって片方裸足の亜由美が一生懸命引っ張っても出てこないのだ。

 ──もう、やだ……。
 ここ数年の不幸が一気に襲ってきたようで、本当に涙で前が見えなくなりそうだった。


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