遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
19.カ、カチコミ…?
「若い巡査がいちばん市民と触れ合う。いい警官がたくさんいる所轄内は治安が良くなる……というのが父の持論なんだ」

 鷹條が父を警察官としても尊敬していることがよく分かるエピソードだった。
「俺とは、また違う立場で治安維持に努めてる、ということだよな」

 鷹條のように国の要人を警護する仕事もあれば、父のように後進を育てる仕事もある。

 お互いに同じ職業についていて深く理解しながら、お互いを尊敬していると感じた。亜由美はここへ連れてきてくれた鷹條に感謝する。

「千智さん……」
 亜由美はつん、と鷹條の服の袖を引っ張る。
「ん?」

「この場所に連れてきてくれてありがとう。ご両親にお会いできて、とっても嬉しい」
「そうか」

 いつものように鷹條の感情が大きく揺らぐことはないけれど、ほんのりと嬉しそうにしている気配を感じて、亜由美も嬉しくなった。

 鷹條が官舎に足を向ける。亜由美に向かって手を差し出したので、その手を亜由美はぎゅっと握った。

 小さな門を開けて、小道を通り官舎の庭にまた戻る。
「あら……」

 客間を賑わせていた寮生たちは亜由美たちのためにさっと帰ったのだろう。もう、誰もいなくてちゃぶ台を拭いている母に二人で手を繋いで戻ってきたところを見られてしまった。
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