遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「その最中にカチコミっていうの? 抗争真っ最中の相手の組員が殴り込んできて、警察と対象の組事務所の組員と抗争相手の組員と皆で取っ組み合いになって、何人か入院したじゃない」

「え……」
 いや……覚悟をするとは言ったけど、そこまでの覚悟も必要なのだろうかと驚く。

(カ、カチコミ?)
 ごく普通の主婦に見える母の口から出てきた言葉とはとても思えず、亜由美は固まってしまった。

「まあ、昔の話だから。ただ、今千智がしている警護も万が一の時は自分の身を挺しても、要人を警護しなくてはいけない。確かに覚悟が必要なのかもな。ああ、反対しているわけじゃないんだ。怖がらせるつもりもなくて……」

 そうであればきっと事実なのだ。
 鷹條はその覚悟を持って勤務している。そういう人だ。

「私が支えてもいいですか?」
「亜由美……」

 これまで一緒に過ごした時間の中で鷹條はなにがあっても亜由美を護ってくれるということは、十分に分かっていた。であれば、亜由美にできるのは理解して支えることだけだ。

「亜由美さん、大変なことです。千智をどうぞよろしくお願いいたします」

 父に頭を下げられ、その横で母にも頭を下げられて、亜由美は戸惑ってつい横にいる鷹條へ目線を送ってしまう。鷹條はぎゅっとちゃぶ台の下で亜由美の手を握った。
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