遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 それだけで亜由美はきゅんとする。
「こういう人なんだ」
 真っすぐな鷹條の表情と声。顔を上げた両親も嬉しそうに微笑んでいた。

「本当、ちーちゃんが選んだ人がいい人でよかったわ」
「ですって、ちーちゃん?」

 ふふっと笑った亜由美が思わず動きを止めてしまった鷹條の顔を覗き込む。はーっと鷹條から深いため息が漏れた。

「いや、本当にその呼び方はやめてくれ……」
 普段は隙がないほどの雰囲気を持っている鷹條が、鷹條家では可愛がられている末っ子なんだと、亜由美はとても微笑ましく思うのに鷹條は恥ずかしいようだ。

 こうして鷹條家への挨拶は穏やかな雰囲気で終わったのだった。

 帰り際に「また遊びに来てね」と母に笑顔を向けられ、お惣菜のお土産をいっぱいもらってしまった。

 温かく、思いやりに満ちた優しい家庭なのだと亜由美は安心したのだった。



 姫宮商事はもちろん華美なアクセサリーをしないこと、というのが社内規定ではあるのだけれど、結婚指輪、婚約指輪、またファッションリングでも華美でないものは認められていた。

 亜由美も先輩が指輪を付けているところを見たことがあったし、プロポーズしてくれた時の幸せな気持ちを思うと鷹條に見守られているように感じるから身につけていたくて、少し迷ったけれど会社にも付けていくことにする。

 もちろん真っ先に気づいたのは隣の席の奥村だ。
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