遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
20.スライディング土下座
 二駅だけなのでタクシーで帰ろうと、亜由美と鷹條はビルの前のタクシー乗り場に向かう。
 すると、奥村が久木に声をかけていた。

「久木さん、もう一軒行きませんか? ここの上に雰囲気のいいバーがあるんです」
「いいですね」
 久木もそれに同意している。

「お二人はどうぞ、気にしないで帰ってね」
 奥村はにこにこしていた。いつもの気づかいなのか、本音なのかは不明だがお互いいい大人なのだし、亜由美としては奥村と久木に仲良くしてもらえたら嬉しいことに間違いはない。

「では……すみません。お先に失礼いたします」
 タクシーに乗る二人へ奥村は、ばいばーいと手を振っていた。

  ◇◇◇

「さて、久木さん。もしも私がすっごく酔っぱらって帰れなくなったら送ってくださいね」
 背の高い久木を見上げるようにして奥村は話しかけた。

「もちろんです」
 奥村の言葉に久木はにこりと笑う。奥村はその表情をじっと見て、柔らかく言った。

「久木さんのその笑顔って、鷹條さんの無表情と同じでそれも仮面なんですね」

「ん?」
「剥がしたいです。信頼できる人の前では、もっと自然な顔なんですか?」

 久木は苦笑してしまった。
 とても可愛らしい雰囲気の奥村はストレートな人らしいと分かったからだ。

 実を言えば、そのふわふわとして可愛らしい見た目の奥村は久木の好みではあった。
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