遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 そして奥村の言う通り、笑みを絶やさない久木の表情は仮面の一つでもある。本心を知られるのがあまり好きではないからだ。

 感じの良い方ですねと言われることはあっても、その仮面を剥がしたいと言われたことはない。

 奥村は若く見えるけれど、年相応に人を見る目はあるらしいと見直した。
「奥村さん、なかなか積極的なんですね」

「はい。好ましいと思える人に出逢えることはそんなにないんです。久木さんは私にとってとても好ましいです。こんなチャンスはないから必死です」

「正直な気持ちですか?」
 こくりと奥村は頷く。

 一方で奥村も正直に言えば、久木の外見はもうドンピシャで好みだ。背が高く、がっしりとした体つき。きりりと精悍な顔立ちとそれとは相反する穏やかな話し方まで好みすぎた。

「では僕も正直な気持ちを打ち明けましょう。あなたを見た時に、ここに呼んでくれた鷹條くんに感謝しました。あなたは僕にとってもとても好ましい」

「本当……?」
 身長差のせいか、奥村がじっと見ると久木からは上目遣いに見えてしまう。

 ふわりと頬を赤くして上目遣いで自分を見る好みの女性というのは本当に困る。

「頼むから、そんな目で見ないでください。理性がどこかに行きそうです」
 奥村の真っすぐさに苦笑しつつ、久木は惹かれつつあることも自覚していた。

「理性がどこかに行っちゃった久木さんも見たいんですけど……」
「本当に困ったな」

「また、会ってもらえますか?」
「思い通りには会えないかも知れません」
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