遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 普段より少しご機嫌な亜由美と鷹條はコンビニ前でタクシーを降りて、買い物をする。荷物を持ってくれる手とは逆の手を繋いで家路についた。

「結婚式、なんだかすごく楽しみ」
「好きなようにしていいからな」
「うん。でも相談には乗ってね」
「分かった」

「あとね、千智さんの礼服姿が一番楽しみなの。今日、久木さんに言われて気が付いたの。確かにそうよね。千智さんは制服なのね。すっごく見たい!」

「俺は亜由美のドレス姿を楽しみにしているのに」
 ふふっと笑って亜由美が鷹條の顔を覗き込むと、鷹條が急に表情を引き締めた。

「千智さん?」
 鷹條がぎゅっと強く亜由美の手を握る。
 マンションに向かう道の途中で、亜由美の手を強く引いて横道に入った。

「千智さん……」
「しー、静かに。尾けられてる」

 ストーカーはもう捕まったはずだった。それでもあの時の恐怖を思い出して、亜由美の身体がこわばる。
「大丈夫」

 側にいる鷹條の声が頼りだった。声を出さないように飲み込んで、亜由美はどきどきと早鐘を打つ胸を落ち着かせるためにゆっくりと呼吸する。

 鷹條は亜由美の顔を覗き込んで、一瞬だけにこりと笑うと、また表情を引き締めて横道の前で足を止めているらしい不審者の様子を伺う。

 ──こんな時に思うことじゃないのは分かっているんだけど……か、カッコいい!

 鷹條は完全に警護モードになっているようで、側でそんな姿を見たことのない亜由美は別の意味でどきどきしてきてしまった。
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