遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「亜由美、ここでじっとしてて」
 緊張感のある鷹條の声にこくこくと亜由美は頷く。妙に現実感がないようにも感じた。

 さっと横道から出た鷹條は気づいたら不審者の腕を軽く抑えていた。
「誰だ? どうして尾けてる?」

 建物の陰から亜由美はそっと覗く。鷹條が抑えている男性の姿に見覚えがある。
「あれ? お父さん!」
「え?」

「怪しいものじゃないです……」
 海外にいるはずの亜由美の父が鷹條にがっしりと腕を抑えつけられていた。


「大変に申し訳ございませんでした」
 杉原家のリビングで鷹條は今にも土下座せんばかりの勢いで頭を下げている。
「いやいや、君本当に強いねぇ……」

 先程掴まれた腕を見ながら父は感心したようにそう漏らしていた。

 まさか、初対面で婚約者の父の腕を捻りあげることになるとは思っていなかっただろう鷹條は恐縮しまくっている。

 それでも鷹條の仕事をしている時の姿に少しだけ触れられたようで、亜由美は嬉しい気持ちになったのはもちろん内緒だ。

「私は安心したわよ。亜由美ちゃんからは聞いていたけど、しっかり護ってくれそうじゃない」
 母はお茶を煎れながら、ねぇ? と亜由美に首を傾げる。亜由美も頷いた。

(帰ってくるって言ってくれたら驚かなかったのに!)

 ほんの可愛いイタズラ心だったのかもしれないが、仕事柄、鷹條には冗談にならなくても仕方ない。
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