遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「本当に申し訳ありません。もし、どこかに痛みなどがあればすぐ言って下さい」
 真面目に鷹條が頭を下げるのに、父も頭を下げる。

「いや、君から見たらこっちが不審だったことは間違いないしね。驚かせてすまなかったよ。それにけがをしないようにしてくれていただろう?」

「はい。そうですが、大丈夫でしたか?」
 心配そうに見る鷹條に父は元気に腕をぐりんぐりんして見せた。

「うん。全く大丈夫」
 普段動揺することのない鷹條がかなり動揺しているようすに、亜由美はなんだか気の毒になってくる。

「帰国するときは教えてくれるって言ってたじゃない」
 少しむくれて父に言う。

「驚かせようと思ったんだよ」
「驚いたけども……」

 一方で鷹條は甘えたり、むくれたりする亜由美を微笑ましい気持ちで見ていた。
 やはり親の前ならば素直に甘えられるんだなと感じる。

 緩く微笑んだ鷹條はお茶を飲み終わったあと、リビングのソファから立ち上がった。
「せっかくの親子水入らずなんだし、ゆっくり話したいこともあるだろう。今日は俺は失礼するよ」

「なんだか申し訳なかったわ」
 両親と亜由美は玄関まで鷹條を見送る。

「本当に申し訳ありませんでした」
 玄関を出る時、再度頭を下げる鷹條に父は笑顔を向けた。
「気にしないで。ご両親にもぜひよろしくお伝えください」

「はい。じゃあ、亜由美また」
「うん。気をつけて帰ってね」
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