遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 玄関を出る時、鷹條はふわりと家族に笑顔を向けた。
「驚きましたけど、お会いできてご挨拶できて嬉しかったです。またこちらにいるうちにゆっくり食事でも行きたいです」

「もちろんそうしよう」
「こちらこそよろしくね」

 そして鷹條はドアの向こうに姿を消したのだが、亜由美はその笑顔に胸を射抜かれてしまっていた。
(千智さんの笑顔……レアすぎるし、破壊力がスゴすぎる)

「なかなか好青年だな」
 父はそう言って、うんうん頷いていた。横で母も頷いている。

「すごく素敵な方ねぇ、亜由美ちゃん」
「うん」
 両親に鷹條を認められるのは素直に嬉しいことだった。

 亜由美がお風呂から上がってくると、父はソファで居眠りしていて、母はダイニングで雑誌をめくっていた。

 二人が海外に行く前には当たり前だった光景だ。
 亜由美は父に軽く声をかける。
「お父さん、ここじゃゆっくりできないからベッドで寝たら?」

「う……ん」
 亜由美に声をかけられ、ぼうっとした父がしぶしぶ起き上がってベッドに行くのもいつものことだ。

 母は亜由美がマガジンラックに置いていた、結婚情報誌を持ってきて、それを先程から熱心に見ていたようだった。

「ドレス、見てるの?」
 亜由美が声をかけると母は雑誌から顔を上げる。
「ええ。可愛いのがたくさんあるのね。もうどんなのにするか決めた?」
「いいえ。まだ」
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