遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 亜由美が足をそっとハンカチの置かれた地面に降ろしたその瞬間である。

「い! 痛ーいっ!」
「え!?」

 地面に刺さったヒールを手にした彼が亜由美の悲鳴に驚いて目を見開いている。
 亜由美は本当に今度こそ涙が出てきた。

「……っう……もう、やだ……」
「ちょ……君、どうした?」

「痛いんだもの……」
 置いた足の足首辺りにとんでもない痛みを感じたのだ。

「どこが痛い?」
「足です……」

「ヒールに足を取られたときに捻ったんだろう」
 度重なる不幸と痛みに亜由美はぽろぽろと涙をこぼす。

「まあ、朝もあんなことがあったしな。泣くな……痛いか? ん? ちょっと動かすぞ」

 彼は亜由美の足をそっと手に取った。
 そうして軽く動かす。

「これはどうだ?」
「大丈夫……」
「これは?」
 と別の方向に動かされたとき、足に鋭い痛みが走った。

「痛っ!」
「靭帯は大丈夫そうだ。捻挫だと思うが痛みが強いし、念の為、病院に行くか」

 彼は亜由美に靴を渡すと、ひょいっと亜由美を横抱きに抱えた。いわゆるお姫様抱っこだ。

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