遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 鷹條は即答していた。
「え? 俺はいいかな」

 亜由美は鷹條のタキシード、絶対に似合うと思うのだが鷹條自身が乗り気ではないのでは仕方ない。それに亜由美自身もお色直しは考えていなかった。

「いらっしゃった方に結婚のご報告ができて、おもてなしできればそれでいいかなって思っているんですけど」
 それは亜由美の意思でもあって、鷹條とも共通している気持ちだった。

 プランナーはにっこり笑って頭を下げる。
「そうでしたね。お二人とも本当に美男美女でいらっしゃるから、つい熱くなってしまいました。申し訳ございません」

 そこへ軽いため息をつきながら母が同意する。
「分かるわぁ。本当に鷹條さんもイケメンさんだし、亜由美ちゃんも可愛いから。私の本音を言えばもう何着でもドレスを着てほしいところなんだけれど、その気持ちは抑えるわ」

「もう、お母さん。それは親バカだからね!」
「そうでもないと思うが……亜由美が可愛いのは間違いない」
 母の言葉に鷹條がぼそっとつぶやく。 亜由美はそれにはハッキリと言っておいた。

「千智さんまで! 言っておくけど私がお色直ししたら千智さんもするのよ」
「それは大丈夫」

 微笑ましいカップルと親子のやり取りをプランナーもにこにこしながら見ていた。

 亜由美がカーテンを引かれた試着室から出てくるとその場から一斉にため息が漏れた。
 母が涙を堪えている様子さえ見える。

「杉原様とても素敵です」
「お母さん、泣くのはまだ早いから……」
「でも、亜由美ちゃんがおっきくなって……」
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