遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 わぁっと参列者に囲まれた二人は記念写真の餌食となっていた。
 
 厳かな結婚式から一転して披露宴は明るい雰囲気となる。

 披露宴の最中、鷹條の同僚たちが突然、
「この会場で盗難事件が発生しました! 動かないで!」
 と緊迫感のある声を出した。

 真剣な警察官たちの表情に式場にいた全員が固まる。ざわざわと顔を見合わせる中、亜由美も一瞬不安な気持ちになって鷹條を見た。すると鷹條は苦笑している。

 本当の事件ではないらしいけれど、なにが起こっているのか分からず戸惑う亜由美だ。

「犯人は……」
 そんな声と共に会場が暗くなるから余興なのだと分かって今度はわくわくしていると、ぱっと亜由美にスポットライトが当たった。

(わ、私!?)
 盗難事件と言っていたが、心当たりは全くない。

「え?」
 きょろきょろしても、鷹條は笑っているだけだ。そして軽く亜由美を抱き寄せて耳元に囁いた。

「大丈夫」
 大丈夫!? 何が!?

「亜由美さん、逮捕します。罪状は盗難罪。こちらの鷹條警部補のハートを盗んだ罪です」

 あまりにもベタすぎて、亜由美は真っ赤になってしまう。
 ハートを盗んだなんて恥ずかしすぎる!

 前に出てきた久木にそっと手を差し出されて「お手をどうぞ」と言われ、亜由美はそっと手を乗せた。
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