遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 駅前でお姫様抱っこは目立ちすぎる。軽々と抱えられて亜由美は戸惑ってしまった。

「あの! 大丈夫ですから!」
 亜由美は慌てて彼にそう言って降りようとしたのだ。けれど、彼は淡々と亜由美に伝える。

「あんなに痛がって大丈夫もないだろう。病院までは我慢しないか?」
「我慢?」

 我慢と言われて、一瞬何のことかと思った。病院まで痛みを我慢するのは当然のことだ。

「見知らぬ男と一緒でも」
 そう言われて、慌てて亜由美は首を横に振る。
 彼が見知らぬ人だから我慢しなきゃなんて思わない。目立ちすぎるくらいに目立ってしまっても、亜由美のために亜由美を抱き上げてくれるような人だ。

「いえ。むしろこちらがご迷惑かけているし、あの重いですよね? 私、片足で……」
 片足で行くから大丈夫です。そう言おうとしたのだ。

「そんなヒールでケンケンしてみろ。そっちの足も挫くのがオチだ」
 そう言って怖い顔をされた。

「ごめんなさい」
 亜由美が謝ると彼はふっと表情を緩める。

「まあ、朝もあんなことがあったし、これも縁だから気にしなくていい」
 横抱きにしたまま亜由美を運んで、彼は駅のタクシー乗り場へ向かいタクシーに乗せてくれた。


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