遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「家族は、いなくて……」
「一人暮らしか」
「はい」

 鷹條は何かを察したように亜由美からそっと目線を外した。

(ん? ちょっと待って。家族は日本にはいないけど、なにか誤解されてない?)

「そうか……。では、なおさら一人にはできないな」

 誤解を解こうと思った瞬間、一人にできないと言われて亜由美は戸惑いの方が先に立ってしまって、どういうことなのか鷹條に尋ねようとした。

「亜由美ちゃん、入るよ?」
 その時、先ほどカルテを作ってくるからと一旦出ていった香坂が処置室の中に入ってきてしまったのだ。

 突然名前で呼ばれて、亜由美は戸惑ってしまった。目の前の鷹篠はむっとして明らかに機嫌が悪くなり、香坂に言い返している。

「お前なぁ、名前呼びはないだろう?」
「え? だって、鷹篠の知り合いなんでしょ? 亜由美ちゃんだよね」
「そうでも、許可も得ずに名前なんかで呼ぶな」

 香坂の目がネコのように細くなって口角がきゅっと上がっている。
 笑っているようにも見えるが、なんだか含みがありそうだ。

「はいはい。では杉原さん、診察しようね。少し足を触るけどいい?」
「はい」
 しゃがんだ香坂は亜由美の足に触れる。

「痛っ……」
 先ほどと同じ方向に捻られると強く痛みが出るようだった。

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