遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「鷹條、何泣かせてる?」

 亜由美の涙を見て、香坂は呆れたような視線を鷹條に飛ばす。
 鷹條ももちろん泣かせるつもりはなかったはずなのでとても焦っていた。

「え? ちょっ……そんなつもりは……。ごめん。何か俺が失礼なことを言ったんだよな」

 鷹條のせいでないのは明らかなので、亜由美は慌てて否定する。

「いいえ。ちょっと、今日は色々あったので。鷹條さんのご親切にとても感謝しています。本当にありがとうございます」
「いや……」

「鷹條、ちゃんと責任持って最後まで送れよ?」
 にやにやと笑いながらそう言う香坂に鷹條は苦い表情を返していた。

「うるさいな。分かってる」
 その言葉通り、鷹條は診察が終わるまで一緒に付き添ってくれた。

 香坂に画像なども確認してもらったが、やはり骨や靭帯などに異常はなく、強い捻挫だったことが分かり、不幸中の幸いだったと亜由美も安心した。

「数日は腫れるかもしれない。無理はしないように」
 そう言って、香坂は亜由美の足元を見る。

「痛みがなくなるまではヒールもダメだよ? 可愛いけど」
「はい。あの、ありがとうございました」

「痛み止めと貼り薬をもらって帰ってね。お大事に」
 ひらひらと手を振る香坂に亜由美は頭を下げて診察室を出る。

「杉原さん、タクシーを呼んでおいたから」
 鷹條の気づかいには亜由美は驚いてしまう。

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