遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「あの……良かったら、何かお出ししますけど……」

「いや。こんな時間に独身のお嬢さんの部屋に上がり込むわけにはいかないだろう」

 きっと断るだろうとなんとなく想像はしていた。思った通りの言葉が返ってきたことには残念だけれど、ショックは受けない。

 むしろこの人ならばそう答えるだろうと予想していたから。

 四角四面のように感じる表情や、態度は自身を公僕だと意識してのものなのだろう。
 普段から鷹條はそれを意識しているのだと思われた。

(真面目な……人なんだわ)
 迷惑をかけるわけにはいかない。好ましく思っているといっても、鷹條がそう思っていないのでは意味がないのだ。

 亜由美には最後まで勇気は出なかった。
「本当にありがとうございました」
 その場でぺこりと頭を下げて、マンションの中に入っていくことしか出来なかったのだ。

 ◇◇◇
 
 この日の朝、鷹條千智(たかじょうちさと)は当直明けだった。

 朝の空気は爽やかで駅から出てきた人たちが周りの官公庁の建物に吸い込まれて行く中、逆らうようにして鷹篠は駅に向かって歩く。

 鷹條が勤務するのは警視庁警護課で、つまりSPと呼ばれる「セキュリティ・ポリス」という要人警護の仕事についていた。

 SPの警護対象者というのは規定されており、係は四つに分かれている。

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