遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 それよりも、とにかく早く帰って寝たい……というか身体を休めたい、と言うのが鷹條の本音だった。

 立場的にお礼を受け取るわけにもいかない。彼女がお礼を、というのを断って足早にその場を去る。
 

 鷹條は今、官舎で一人暮らししていた。

 警察官は採用されるとまず警察学校に入学する。大学卒業の場合その期間は六か月で、全寮制の共同生活をして警察官に必要とされる基本的な知識や技術、体力を身につけることになる。

 警察学校を卒業した後は、交番勤務だ。
 そこで住民との接し方や簡単な案件の処理、書類の作成など現場仕事に触れる。

 交番勤務ののち所轄と呼ばれる警察署に配属されて試験や実績、実力に応じてキャリアアップしてゆくこととなる。

 配属が決まった後も、新人警察官は所轄の敷地内にある寮でまた共同生活だ。
 昇進すれば、寮を出ることを許可されるがそれでもどこに住んでもいいというわけでもない。

 鷹條の今の階級は警部補で、業務としては上司である係長を補佐したり、巡査・巡査部長の指導監督を行う立場にある。警部補に昇進した時、鷹篠は寮を出た。

 警部補となると班長クラスになり、寮にいられても部下がくつろげないのではないかと考えたのだ。

 順当というよりも、二十代後半での警部補はキャリアを除いては出世は早い方だろう。

 官舎は一棟まるまる借り上げている建物で、官舎に住んでいるのは所轄が違ってもみんな警察官ということになる。

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