遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 少し古いマンションのような外観の官舎の2DKが今の鷹條の住まいだった。
 一人暮らしには十分な広さがある。

 勤務先は電車で一本で二駅。鷹條ならジョギング替わりに走ってでも行ける距離で、立地のよさは折り紙付きだ。

 玄関にバッグを置いて、スーツを脱いで簡単に手入れする。
 そして、シャツをクリーニングの袋に投げ込んだらシャワーだ。シャワーを浴びたら、やっと気分がすっきりするのもいつものことだ。

 宿直室にも一応シャワーの完備はされているが、やはり自宅の方が落ち着くので鷹條は自宅に帰ってきてから浴びることにしていた。

 軽く仮眠をとり、着替えをして出勤する。
 この日は警備業務担当ではなかったので、庁舎で事務作業をして帰宅した。

 そして、まさか帰りにもその女性に遭遇するなどとは全く予想もしていなかった。

 最初、鷹條は朝の彼女だとは気づかなかったのだ。
 駅を出て、コンビニで買い物でもしようかと思ったところ、女性が急に何かに足を取られたように転倒した。

 しばらく見ていたら、ヒールの踵が溝にはまってしまったようで、女性は一所懸命に抜こうとしている。

 周りにいた誰もがチラチラと見ているけれど、助けようとはしないので、やむなく鷹條は声をかけたのだ。

 半泣きで潤んだような瞳で見られてやっと朝の彼女だと気づいた。

 ──しっかりものに見えるが、少しおっちょこちょいなのだろうか?

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