遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 どんなふうにはまったものなのか、ヒールは溝にしっかりと挟まっている。
 軽く引いたくらいでは取ることはできなかった。挟まった上に引っかかっているようだ。

 その間、足を地面に置かせているのも忍びない気がして、自分の膝に置いてもらおうとしたのだが、スーツが汚れるから、と彼女は遠慮していた。
 相手のことを思いやれる人のようだ。

 まあそれもそうかと思い直し、地面にハンカチを引いたのだが、その瞬間『痛い!』という声が聞こえたのだ。

 確かにこれほどヒールが引っかかって転倒したのでは、捻った可能性も否定はできない。

 このまま彼女を放っておくことはできなくて、香坂のいる病院まで連れて行った。
 幸い香坂は勤務中だったので、診てもらうことができた。

 治療が終わったあと、本当は杉原のことは家族に後を託して帰ろうかとも思っていたのだ。
 けれど、家族は?と聞いた彼女の反応が微妙だったので訳ありなのだと判断した。

 職業がら、不幸なことで身内を失うケースを鷹條は多く見ている。

 杉原と名乗った彼女は確かにとてもしっかりして見える。それはしっかりせざるを得ないような環境にあるからなのかもしれなかった。

 とてもしっかりしていて、大人びた雰囲気の杉原。
 けれど時々見せる頼りなさや、そそっかしさが見た目とのギャップを感じて、それが鷹條にはとても愛らしく感じる。

 それに見た目ならば、その大人っぽく整った雰囲気は鷹條の好みでもあったのだ。

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