遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「『何を』は今から言うんだ。つまりお前がアプローチもしないでノロノロしているんだったら、僕が彼女を守りたいって話だよ」
 にやにやと笑っているのにイライラした。見透かすような笑顔には腹が立つ。

「絶対に手を出すな」
 そう言って、診察室を出てロビーの椅子で待っていた亜由美に声をかけた。

「方向は同じなんだ。今タクシーを呼ぶから一緒に帰ろう」
 そうして、病院の外に出て二人でベンチに腰掛けてタクシーが来るのを待った。

 お礼をさせてほしいと亜由美はひどく熱心に言ってくれる。
 鷹條はそれを受けてしまいたいような気持ちにさせられた。

 けれど、公務員としての禁止事項であるということが鷹條の中で引っかかってしまって気持ちすら受けることができない。

 公務員は利害関係に該当するものから接待や無償でサービスを受けたり、金品やものをもらうと収賄罪に該当する可能性がある。

 しゅん……とする亜由美を見てなんだか申し訳なくなった。
 だから『立場的に無理なのだ』と説明した。

 公僕だから無理なのだ、と。
 彼女はそれで納得したようだった。

 なんとなく、公務員はものをもらってはいけないんだろう。ぐらいのことは認識しているのではないだろうか。

 警察官は公務員なので、当然これに該当するし、執行権をもつ立場ということもあり、ことさらに厳しい。

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