遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 とは言え友人関係や恋人からのプレゼントなのであれば、収賄には該当しないのだ。
 それでもお礼であれば、収賄に該当しかねない。お礼など受け取ってはいけない立場なのだから。

『公務員は、特定への奉仕者ではなく全体への奉仕者である』

 公職の在り方を示すこの言葉は、憲法第15条第2項に基づくもので、国家公務員法にも地方公務員法にも規定されている。
 公務員法を理解している公務員なら、お礼などは受け取らない。

 ──個人的に関係があれば、別だが。

 そんなことを考えていたら、マンションの前に着いてしまった。

「あの……良かったら、何かお出ししますけど……」
 亜由美は律儀な性格なのだろう。それは今日のさまざまな言動から見ていても分かる。

 いくら亜由美がいいと言ってくれたからといって図々しく上がり込むことは、鷹條にはできなかった。

「いや。こんな時間に独身のお嬢さんの部屋に上がり込むわけにはいかないだろう」

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