遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 一条はまるで地団駄を踏む子供のようだ。
 そんな感情的な一条にも、亜由美は静かに言葉を返す。
 一度、きちんと伝えなくてはいけないと思っていた。

「一条さん、皆さん暇だからじゃなくて、それがルールで必要だからきちんとして下さるんです。不備があるものは受け取れません。受領書がないものも」

「そうやって書類の受理を拒否するのが杉原さんのやり方ということなんだな。よく分かった。この件は営業部から、正式に苦情としてそっちの上司にも申し立てるからな!」
「どうぞ」

 一条の剣幕はいつもにも増して激しくて、彼が踵を返したあとは、さすがに震えが止まらなかった。

 今日に限って、いつもこういう時、一条にひとこと言ってくれる奥村が席にいなかった。
 運の悪いことに、課長までもが席にいなかったのだ。

 今日の剣幕は課長がいないからこそ、余計に激しくなったものだったのかもしれなかった。

 一条が姿を消したあと、亜由美は大きくため息をつく。

「ごめんね、杉原さん。一条さんの剣幕がすごくて口がはさめなくて」
 亜由美の向かいにいた先輩がそっと声をかけてくれた。

「いえ……」
 確かに突然来て、まくしたてるようにして帰っていったのだ。なかなか口を差し挟めなかったとしても、仕方がないことだろう。

「一条さんが言うことにも一理あるわよ」

 亜由美の後ろから一人の女性社員が声を掛けてくる。
 穏やかではない雰囲気だ。腕を組んで亜由美を睨むように見ていた。
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