遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 きっぱりとそう言う奥村に、女性社員は「すみませんでした」と言って席に戻っていった。

「全く……」
 隣の席から大きなため息が聞こえて、亜由美は「申し訳ありませんでした」と声をかける。

「どうして? 杉原さんは悪くないわよ。指導の通りにやってくれてる。通達は出してもらっているんだけど、なかなかね……こちらこそごめんなさいね、席にいない間に嫌な思いをさせてしまって」

 奥村は先輩として尊敬できる。本当はとても怖かった。

 つい目元が熱くなってしまったけれど一生懸命それを我慢して、亜由美は首を横に振った。

 泣きそうだったのは、二人から責められたことではなくて、奥村が亜由美のことを理解してくれていることだ。
 こういう先輩になりたいと亜由美は強く思った。

 午前中、亜由美は何とか仕事をこなしたものの、誰かとお昼に行く気にはなれなくて、少し時間を外して、外へランチに出ることにする。

 会社の入っているビルを出ると、やっと息が出来るような気がした。

 やはり気分転換は大事だ。
 亜由美の塞ぐような気持ちとはうらはらに、外は気持ちの良い青空だった。その爽やかさに少し気分も晴れたように思う。

 せめてランチくらい今日は奮発しようと亜由美は近くのビルに向かった。

「杉原!」
 突然、名前を呼ばれて振り返ると一条がいて、亜由美に向かってつかつかと歩いてきたのだ。
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