遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 そして、亜由美を取り返してくれた力強い腕。その腕の主を亜由美は知っている。
 腕の中で顔を上げると精悍な顔が獰猛さを含んで一条をにらんでいた。

 ──また、助けてくれた。

「鷹條さん」
「全く、君は何でそう俺の前でトラブルを起こす?」
「そ、そういう訳では……」
 むしろ、なぜこんなところに鷹條がいるのか知りたい。

「お前、なんなんだ? 杉原と俺は知り合いなんだ。関係ないだろう?」

 一条は鷹條の正体を知らないから、そう返す。その一条に向かって鷹條は亜由美を腕に抱いたまま、きっぱりと伝えた。

「知り合いでも暴行は成立するぞ」
「暴行?」
 急にそんな言葉が出てきて、一条は眉を顰める。

「襟元を掴んだだけでも暴行罪は成立する。俺も証言する」

(──どうしよう?)
 とんでもない状況なのに、すごくすごく嬉しい。

 もう、会えないと思っていた。雲の上の人なんだと。
 なのに、こんな風に偶然に出会ってしまったばかりか、鷹條がまた亜由美を護ってくれている。

「僕も証言しますよ?」
 そう横から言ったのは、鷹條よりも背の高い、身体つきのがっしりとした男性だった。

 その男性はにこりと笑い、懐から身分証を出す。いわゆる警察手帳だ。

「こういう者なんですけどね? これを提示するってことは必要があると判断した時です」

 亜由美も初めて見た。一条は警察手帳を目にして完全に怯んでいる。
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