遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「では鷹條くん、会議には間に合うように」
「はい」
 久木にそう返事をした鷹條は亜由美の方を見た。

「なにがあったんだ?」
 亜由美は会社内でのトラブルが原因で一条を怒らせてしまったこと。
 怒らせたはずなのに、気を引きたいのかと言われて押し問答になってしまっていたことを伝える。

 鷹條は髪を軽くかき上げた。
「まさか、俺は邪魔したんじゃないよな?」

 亜由美は慌てて首を横に振る。誤解されてはたまらない。
「そんな訳ないです! 助けてくださってありがとうございました。……いつも、本当にありがとうございます」

「まあ、杉原さんが危ない目に合うことは本意じゃないけど、助けられてよかったよ」
 ふっと微笑む鷹條はまぶしいくらいにカッコいい。

「食事に行くところじゃなかったのか?」
「そうですけど……」
 正直に言えば、そんな気分ではなくなってしまった。

「いいから、何か食おう」
 あそこでいいか? と鷹條は外に椅子とテーブルを出しているカフェを指さした。
 食事をする気分ではない亜由美に気をつかってくれたのだろう。

「はい」
 思いがけず鷹條と一緒に食事をすることになって、亜由美は嬉しさと戸惑いで急に胸がどきどきしてきてしまった。

 鷹條は外の席を選んでくれた。
 天気の良い日、通りに面したテラスは心地よくて、先程の怖かった気持ちや、不快だった気持ちを和らげてくれる。
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