遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
6. 好きな子は大事にする
「あいつ、いつもあんなにしつこいのか?」
 運ばれてきたコーヒーをお礼を言って受け取って、鷹條は亜由美に尋ねる。

「今日はすごくヘンでした。とっても強引だったわ」
「君のことが好きなんだろう」
「意地悪ばっかりします。それにちゃんとしてくれないし」

 好きなんだと言われても全くピンとこない。仮に一条にそんな気持ちがあるのだとしたら、亜由美にとっては気分が悪いだけだ。

「好きな子に意地悪する男は多いぞ」
 亜由美はじっと鷹條を見た。
 鷹條は狼狽えたように目を伏せる。

「鷹條さんも意地悪するんですか?」
「しない。俺は……好きな子は大事にしたいからな」
 目を伏せていても鷹條はそんな風にキッパリと言う。

 亜由美はその鷹條の好きな子がとても羨ましくなってしまった。亜由美は鷹條のその優しさを知っている。

 困っている人を見かけたら放っておけない人だ。
 通りすがりの亜由美にすら優しいのに、恋人にはどれほどその優しさを向けて大事にするんだろう。

「いいな。羨ましいです」
 鷹條に大事にされるのはとても幸せなことだろうと思うと、つい口からぽろっと羨ましいなんて言葉がこぼれてしまった。

(やだ……浅ましく聞こえなかったかな)

 顔を上げていることができなくて、目を伏せた亜由美はカップのふちについていたリップを指先でそっと拭き取る。

 その指先を鷹條にそっと取られた。
「大事にしていいか?」

 そう言われて真剣な顔で覗き込まれて、一瞬亜由美は何を言われているのか分からなかった。
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