遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「え?」
「言っただろう? 好きな子は大事にしたいんだ」

 好きな……子……?
「鷹條さん、好きな子って私なんですか?」

 鷹條がぐっと言葉を詰まらせる。指先まで握って、こんなに真剣な顔で言葉を詰まらせる鷹條なんて、初めて見た。
 だって、動揺しない人だとばかり思っていたから。

「何度も言わせないでくれ。本当にそういうタイプじゃないんだ俺は」
 少しだけ顔が赤いような気もする。

 緩く髪をかき上げて、それでも亜由美の手は離さず、真っすぐ亜由美に告げた。

「そうだよ。君は目を離せない。すぐに俺の目の前でトラブルを起こすし、なのにいつもキリリとして見えて。内心は不安だったり泣きそうだったりするくせにそれを他人には見せない」

 鷹條は照れたような表情なのに、真剣な気持ちが伝わってくる。そのせいか亜由美の鼓動が大きくなって、顔が熱くなってきた。

 亜由美の外見だけではなくて、鷹條はその内面まで見てくれていたことがとても嬉しい。

 こんな風に言ってくれるのは鷹條だけだ。とても嬉しい。

 亜由美だって素敵な人だと思っていたし、手の届かない人だと思っていた。
 まさか鷹條が告白してくれるなんて予想もしていなくて、その真っすぐな気持ちには応えたい。

「私も好きって思ってました。だって、そんな風に言ってくれるのは鷹條さんだけだし、いつも助けてくれて、スーパーマンみたいな人です」

「参ったな……」
 鷹條が髪をかき上げる。
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