遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 そして軽く息を吐くと、亜由美に向き直った。
「俺は仕事の時間も不規則だし、メールとかすぐ返せないことも多い。つまんなくて無愛想なんだが、こんな俺でも付き合ってくれるか?」

「すごく嬉しい。こちらこそ……よろしくお願いします」

 鷹條は「こちらこそ」と笑顔を見せて「良かった……」とぼそりとつぶやいた。

「良かった?」
「ん……。実を言うとすごく焦った。いいなって思っていた子が男性に目の前で口説かれていたんだからな」

 焦ったという鷹條も今まで見たことのない姿で、亜由美はきゅんきゅんさせられてしまったのだった。
 

 その後お互いの連絡先を交換し合って、亜由美の会社の前まで鷹條は送ってくれた。

 そこから警視庁は皇居を挟んで斜め向こうの通りになる。
「何かあったら連絡して。あ、何もなくても。杉原さんは心配だ」

 心配してくれる人がいるというのは、とても嬉しいものなんだと、亜由美は少しくすぐったいような気持ちになった。

「大丈夫ですよ?」
「大丈夫じゃない。俺も……連絡する」

 その表情はとても甘くて亜由美の胸がドキンと大きな音を立てた。
 こんな顔をされたら、ますます好きになってしまう。

「そんな顔するな。離れ難くなる」
 離れ難い気持ちは一緒だ。

 鷹條は軽く亜由美を抱き寄せ、ぽんぽんと頭を撫でる。そして、すぐに離れた。
「今はここまでだな。また連絡する」
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