遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「どうやって指導していくべきか、営業部の課長も悩みどころではあるらしい。本人にしてみたら数字は出来ているのに、昇進できないのはなぜかって焦りもあるだろうが……それは杉原さんには関係ない社内の話」

 内緒だよ? と口元に人差し指を当てる課長は亜由美に笑って見せた。

「怖かったよな? こっちこそ、早く対応してあげられなくて、ごめんな」
 そう言って、ぺこりと課長は頭を下げた。
 申し訳なさそうだ。

「今頃は営業部にも社内ルールは守ってもらうように、再度通達を出してもらってる。イレギュラーは課長を通すことにしたから」

 亜由美は驚いた。
 すぐに対応してくれて、通達も出してくれたのだ。課長は亜由美に真剣な表情を向けた。

「杉原さんはイレギュラーについては書類が不足しているものも含めて、一切受けなくていい。今後イレギュラーが発生したら僕に言ってくれる?」
「はい……」


 上司がきちんと対応してくれたということは、本当にありがたいことだった。
「杉原さん」
「はい」

「他の課員からも、心配する声を聞いたからね。本当に申し訳ない」
「とんでもないです! そんな風に言ってくださることがありがたいです」

 慌てて亜由美が両手を横に振ると、ふっと課長は微笑んだ。
「杉原さんは本当にいい子だけれど、何でも抱えすぎてしまう傾向にあるよね。なにかあったらいつでも言っていいからね」

「ありがとうございます」
 心から嬉しく思って、亜由美は課長に向かって頭を下げる。
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