遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 迷惑に思われたんじゃないかと亜由美は思っていたけれど、課内のメンバーはそれだけではなく、心配もしてくれていたと知って、気持ちがとても楽になった。

 ◇◇◇

 警視庁に戻った鷹條は会議に参加し、その会議のあと上司の久木に声をかけられた。
 予想はしていたので驚くことはない。

「ちょっといいですか?」
「はい」

 呼ばれたのは小会議室だ。テーブルを挟んで鷹條の向かいに座った久木は口を開く。
「どうなりました?」

 先ほどの亜由美の件だというのは鷹條にも察しがつく。
「告白しました」
「で、了承してもらいましたか?」

 からかっているわけではない。久木も真剣な表情だし、鷹條ももちろん真剣だ。
「はい……多分」
「多分? まだ曖昧ですか?」

「あ、いえ。付き合うことになりました。自分を好きだと言ってくれて、その……まだ実感がなかったというか」

「付き合ってと言って了承してもらって、好きだとまで言われたのであれば、交際に発展することは間違いないでしょう」

「はい」
 鷹條は背筋を伸ばす。久木は普段フランクな人だが、仕事には厳しいし、警察官として誇りをもって仕事をしている人だ。

「ルールは知っていますね? お相手の名前、勤務先、住所地を教えてください」
「はい」

 鷹條は亜由美のフルネーム、それから勤務先、送り届けたときに確認した住所を淡々と久木に伝えた。
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