遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「大きな企業の会社員さんのようですね。問題なさそうだ。綺麗な人でしたね」

 最後の一言は完全に久木の個人的な感想であることは、笑みを含んだ表情で鷹條を見ていることからも、察しがついた。

「だから心配なんですよ。それでいて自分の魅力には気づいていない人なのでなおさらです」

「なるほど。鷹條くんとでは美男美女で非常にお似合いそうですが」
「どこがです? 美女と野獣みたいなものでしょう」

 自分の魅力に気づいていないのは、鷹條も同じなのだった。

 ◇◇◇

 午後からの仕事はスムーズに終わって、スーパーで買い物をし、家に帰るとそれを見計らったようにスマートフォンが着信を知らせる。

 連絡先を交換した鷹條からだった。
 亜由美は嬉しくて、胸がほわっと温かくなる。

「はい」
 通話に出た声が少し浮かれてしまっても大目に見てほしい。

『今、仕事中じゃない?』
「今日は定時に終わって、今、お家です」

『無事に帰ったか? 転倒したり、どこかで絡まれたりしなかったか?』

 どういう心配の仕方なんだろう? と思うがすべて鷹條に助けられた時の状況だから、それには強く返せない亜由美でもある。

「ちゃんと無事でした」
『そうか。良かった』
 からかった訳ではなくて、本当に心配していたらしい。
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