遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
7. 寄っていきませんか?
 デート当日、亜由美はオフホワイトの七分袖のシースルーブラウスとピンクの花柄のフィッシュテールのスカートを合わせる。

 玄関前の鏡で全身をチェックして、よしっ! とマンションを出た。

 亜由美の家から待ち合わせ場所である駅前までは十分とかからないけれど、念のために二十分ほど早く家を出る。

 当然、早く着きすぎてしまうわけだが、歩きながらふと思い返した。

 父にお金、約束、時間は信頼を得るために必ず守りなさいと言われていたけれど、いつも早く来すぎてウザいと元彼に言われた思い出だ。

 鷹條に嫌われたくはない。
 けれど、約束を守らないことは亜由美の中ではありえないことだった。

 迷っているうち駅に着いて、待ち合わせ場所に鷹條の姿を見つけ、亜由美はその場へ崩れそうになる。

(そうだった。この人はそんな心配しなくていいのだった)
 亜由美より先に待ち合わせ場所へ来ていた人は少ないが、父の言う通りその行動だけで確かに信頼できる人だと思える。

 嬉しくなって亜由美は早足で鷹條に駆け寄った。
「鷹條さん、ごめんなさい。お待たせしました?」
「いや、勝手に俺が早く来て……てか、杉原さん……」

 ──ん?
 駆け寄ってきた亜由美に気づいた鷹條が途中で言葉を失った。

 口元を抑えて横を向く首元が少し赤い。
「私服、可愛いな」
「あ……りがとうございます」

 それだけのことを言うのに顔を赤くしてしまう鷹條に亜由美のほうが照れてしまいそうだ。
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