遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「迷子になったら困るからな」
 休日の商業施設はとても混雑していた。手のひらを差し出されて緊張していた亜由美に笑顔を向ける。


 迷子なんてなるわけないのに!
 その優しさや自然な雰囲気が亜由美にはとても嬉しい。
 差し出された手のひらにひょいっと自分の手を載せた。

「ならないよ」
 思い切って敬語はやめてそう言ったら、鷹條が嬉しそうに薄く笑って、亜由美が載せた手を指を絡めてきゅっと繋がれる。

 小さな仕草や鷹條の行動の一つ一つが亜由美の胸をときめかせた。
「いや、油断できない。迷子にならないまでも、さらわれても困る」

「それもないから!」
「亜由美は分からない」
 迷子はともかく、さらわれるなんてあり得ない。即座に反論した亜由美に鷹條は笑っている。

 けれど亜由美をエスカレーターへ先に乗せてくれた鷹條を一段上から見た時、耳が赤くなっているのが見えた。
 それを見た亜由美は何も言えなくなってしまった。

 急に繋いでいる手を温かく感じる。
 とても幸せだった。

 建物の中に入り、二人で館内の案内を見てどこに行こうかと相談する。
「水族館……プラネタリウム、映画館まであるんですよねー」

「プラネタリウムと映画館は時間が決まってるんじゃないのか?」
「そうか、上映時間がありますね。映画、観たいものあります?」
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