遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「ん? どうした?」
(観察力がありすぎる彼氏ってどうなの?)

「千智さん、ありがとう……」
 鷹條は本当に言った通り好きな人を本当に大事にするのだと分かって、自分が大事にされていることも分かったから。

「どういたしまして」

 思わずといった雰囲気で、鷹條が指で撫でた頬がいつまでも熱を持っているように感じた。

 ふと、鷹條が表情を引き締めて亜由美のことを見る。
「さっき、遠出はできないって言ったの覚えてるか?」

 飲み物に口をつけながら、亜由美はこくりと頷いた。
 それほどに深い意味のある言葉だとは思わなかった。単に遠いから行きづらいだけのことだろうと思っていたから。

「遠方に外出する場合は申請がいる」
 亜由美は言われている意味がよく分からなくて、きょとんとしてしまった。

「申請……?」
「泊まりがけの旅行などに行く場合は、届出が必要なんだ」

 それは所属部への届出が必要なんだとやっと亜由美は理解する。

「届出……」
 そう口にした亜由美に鷹條はうなずいた。

「日時、宿泊先、移動手段なんかはあらかじめ届出する必要がある。まあ、却下されることはないから旅行も行けなくはない」

 そんなことは全く想像もつかなかったし、知らなかった。
 そんなことまで管理されるとは思ってもみなかったのだ。
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