遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「プライベートでも……なの?」
 つい、そんな言葉が口からこぼれてしまった。

「まぁ、それが普通の反応だよなぁ」
 鷹條が苦笑するのに、亜由美は慌てて言った。困らせたかったわけではないのだ。

「違うの! 私、よく分かっていなくて。教えてくれる?」
 ふっと鷹條が亜由美に笑みを向けた。

「俺、亜由美のそういうところが好きだな。素直に教えてくれる? って俺に直接聞いてくれるのは本当にありがたい。誤解させずに説明できる」

 褒められて、なんだか急に恥ずかしくなってしまった。
「あの……いろいろ知らなくて……」

「当然。いつでも聞いてくれ」
 亜由美も隠し事をせず、疑問にも面倒くさがらずに答えてくれる鷹條を好ましく思う。

「仕事柄、急に呼び出されることもあるんだ。俺の部署は基本的に対象者の予定がはっきりしているから、よほど急なことはないが、それでも全くないとは言い切れない」

 対象者とは鷹條が警護している人たちのことだろう。
「急に予定が入れば、こちらも動かなくてはいけないし、場合によっては他の班の応援に急遽呼ばれることもある。替わりの人材も少ないんだ」

 鷹條はきちんと落ち着いた声で論理的に説明をしてくれていて、話していることもよく分かる。
 こくこくと亜由美は頷いた。確かに人材が足りないからとバイトや派遣を入れることができない職務であることは間違いないのだ。

 確保されている人材の中で何とかするしかない状況というのが、本当に大変なことなのは亜由美にも理解できる。
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