遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
8. 大事なことは言いましょう
 玄関に入ったら、後ろからきゅっと鷹條に抱きしめられた。

 耳元に低い声が囁く。
「いやなら、今すぐ抵抗してくれ」

 亜由美の胸がぎゅっと掴まれたような気持ちになって、どくんどくんと大きな鼓動が鷹條にまで聞こえてしまうんじゃないかと思う。

 抵抗なんてできるわけがなかった。
 胸元のボタンが外されて、するっと肌に鷹條の指が触れる。

「抵抗、しなくていいの?」
 そう聞かれて耳元に甘くキスされる。

「んっ……」
 漏れてしまった声に驚いて、亜由美は慌てて口元を手で抑える。

「何してる?」
「だ……って、ヘンな声、出ちゃった……から」

 涙目の亜由美を鷹條はぎゅうっと抱き締める。
「本っ当になんでそんなに可愛いかな」

「可愛くない、です」
 可愛くないと言われ続けてきたのだ。

「どの辺が? 誰かに言われたか? そいつの目はおかしいぞ。可愛いでしかないんだが」
「きゃ……」
 鷹條に抱き上げられて、亜由美は思わず声が漏れた。

「寝室は?」
「あっちです」
 赤くなりつつ亜由美は部屋の方を指さす。

「あのっ! 待って」
「なんだ? やっぱり、止める?」

「違うの。そうじゃなくて、幻滅しないでくれたらって……」
「なにを?」
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