遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「俺の名前、千智。亜由美、呼んで。俺、亜由美に名前呼ばれるのも好きらしい」

「ち……さと、さん」
「ん?」

 名前を呼んでそれにふわりと微笑んで応えてくれる。たったそれだけのことが、これほどまでに甘い気持ちで胸を満たすものだなんて思わなかった。

 好きという気持ちで胸がいっぱいになる。
 今日一日ずっと一緒に過ごして、鷹條の好きなところしか見つけられなかった。

 好きな人は大事にすると言った鷹條の言葉は信頼に足るものだったし、それ以上に優しくて甘い。

「どうしよう……すごく、好き……」
「うん。俺もすごく、好きだ」
 そう言った鷹條の顔が近づいた。

 何度も何度も唇が重なる。緩く触れ合って、その度に鼓動が大きくなってゆくのを亜由美は感じた。

 強そうに見えても弱い亜由美も、大人びて見えても女子っぽい可愛いものが大好きな亜由美も鷹條は全部全部受け入れてくれる。

 この人の前で、背伸びしたり見栄張ったり、頑張りすぎなくていい。
 そう思うとつい目が潤んでしまう。

「意外と泣き虫だよな? それとも本当は嫌? 俺とはこういうことしたくない?」

 そう言って優しく鷹條は亜由美の頬に触れてくれる。
 聞かれた亜由美は慌てて首を横に振った。

「やじゃ……ない」
 ふっと微笑んで口角の上がった鷹條の唇が亜由美の口元から頬、頬から耳元、そして首元へと徐々に降りてゆく。
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