遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 ブラウスのボタンが外されて胸元に手と唇が触れた。その優しい手つきに思わず声が漏れてしまう。

「んっ……あ」
 それが恥ずかしくて慌てて口元を抑えた。
 聞いたこともないような甘えた声で、自分がそんな声を出すなんて思わなかった。

「やじゃない……んだよな?」
 目線が絡み合って、鷹條からは優しいだけではなくて情欲を含んだ瞳で見つめられていることに亜由美は気づく。恥ずかしいよりそんな瞳で見られることが嬉しかった。

 いつもは表情を変えない鷹條の欲情にあふれた、堪えきれない表情には胸が高鳴る。
 やじゃないのは事実なので、こくんとうなずく。

「やじゃないなら、声も聞かせて。俺、亜由美の声も好きだ」
「呆れ……ないでね?」

 そう言った亜由美にはーっと大きなため息の音が聞こえた。そしてぎゅうっと抱かれる。

「呆れるわけがないだろう。俺の彼女、可愛すぎて困るくらいなのに」

 買いかぶりすぎなのでは? と思うが、鷹條はとても真剣に見える。

 亜由美の上にいる鷹條は脱いだジャケットをベッドの下に放り投げ、着ていた黒いTシャツもかなぐり捨てるように脱いだ。
 その下から現れた見事な裸体はまるでギリシャの彫像のようだった。

「ん? なに?」
 つい、じーっと見つめてしまって、その視線に気づいた鷹條が戸惑ったように亜由美に視線を落とす。

「だって……すごく、カッコいい」
「多少は、鍛えているからな? 亜由美にそんな目で見られるのは悪くない」
 軽々と亜由美を抱き上げられるわけだ。
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