遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 経理部ではいろんな締め日がある。
 経理部が出した数字は経営に関わることもあるので、締め日は本当に大事だ。

 亜由美が担当している経費関連は経理部で精査したのちにシステムで計上されて、経費や給与、予算へと反映される。

 基本的に社内ではシステム計上することを推進されているが、締め日に間に合わない場合などは経理部に書類を直接持ち込むことも許されてはいる。

 ただしそれは緊急時のみだ。
 その際にも明確で細かなルールが定められている。亜由美にしてみれば当然のことだ。

 けれど、中にはそんなルールはあってないがごとくに無視するような社員もいる。

 そのルール無視の代表格と言っても過言ではない営業部の一条が経理部に姿を見せて亜由美の姿を見て「げ……」という声を漏らしたのを聞き逃してはいなかった。

 あらかた亜由美がいないと聞いて慌てて伝票を持ってきたのだろう。

 営業部からの経費申請を担当しているのは亜由美のいるグループだし、最初に伝票を確認するのも亜由美の仕事だ。

 一条は営業部のエースとも目されている人物で、確かに顔立ちもなかなかに整ったいわゆるイケメンだ。はっきりした目鼻立ちと少し垂れ目がちの甘やかな顔立ちは社内でも人気があって、一条に甘い女性社員も多い。

「一条さん、どうかされました?」
「いや……伝票、を……」

 妙に歯切れが悪いのは必要書類を揃えていないからだろうということは、簡単に察しがつく。

「受領書ください」
 亜由美はきっぱりと一条に向かって言った。

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