遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 気持ちよさで頭がおかしくなりそうな中、鷹條の静かな声が薄暗い部屋に響く。

「男にぶつかったと因縁つけられていただろ? あの時、綺麗な人だから絡まれてしまうんだと妙に納得したものがあったよ」

「わ……たしは怖かった……」
「うん。亜由美は悪くない。ただ、俺もきっとあの時一目見て惹かれていた」

 そう言って鷹條は亜由美の耳元に唇をつける。
「一目惚れだよ」

 ぞくぞくっとした。その深い声の直後に鷹條が亜由美の耳朶に舌を差し入れて濡れた音をさせたからだ。

「ふ……あ、あぁんっ……」
 きっと鷹條は亜由美なんかには興味なかったのだろうと思っていたのに、一目惚れなんて言われて耳や首筋に柔らかく舌を這わされたら、声もこらえきれないし下半身がむずむずして、つい太ももを擦りあわせたくなってしまう。

「でもっ……千智さん、は私に興味ないかと……」
「ん。立場があったから。自制してた。こんなことしちゃいけない。連絡先なんてきいちゃいけない。なのに亜由美は何度も俺の目の前で困ってくれるし」

 好きで困っていたわけではないけれど、こうやってお互いの気持ちが通じ合うことができたのなら、それも良かったのかも? と少しだけ思う。

「立場なんて気にしなくていいな?」
 耳元にあった唇は緩やかに移動して、首や鎖骨を甘くくすぐる。

 立場なんて気にしないでほしい。
 柔い感触とぬめりを伴った熱は亜由美も昂らせた。
 だんだん何を言われているのか分からなくなってくる。
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