遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 けれど、男性の中には初めての女性は面倒だからと嫌がる人もいるという。
(それに私がいやとかダメとか言うから……っ)

 いやじゃなかった。ダメでもなかった。鷹條に抱かれたい。
 なのに、鷹條は今にも止めてしまいそうな雰囲気なのだ。

「千智さん……好き。好きなのっ。止めないで。止めちゃ……やだっ。ごめんなさい、もういやとか言わないから」
「ちょ……亜由美、落ち着け。違う。怒ったわけじゃない」

 亜由美の髪を撫でて、その額に鷹條は優しくキスをして亜由美を抱き込んだ。
 直接触れるその胸に亜由美は頬を寄せる。

「どうして、初めてなんだと言わなかった?」
「そんなこと、頭になかったの。それくらい、千智さんにされたかった」

 軽いため息は聞こえたけれど、亜由美に対して怒っている訳ではないことは分かる。

「亜由美は俺にとっても大事で大切にしたい人なんだ。だから、大事なことは言ってくれたら嬉しい」
「はい……」

 ころんとベッドにまた押し倒されて、鷹條の腕の中に閉じ込められる。
「俺でいいの?」

 亜由美は腕を伸ばした。
「千智さんが……いいの。千智さんが初めてで、嬉しい」
「ん。大事に抱く」

 そうして鷹條の顔が近づく。
 さっきよりももっと優しいキスだった。
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