遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 それはもちろんそうだろうし、ぜひそうしてほしい。
 本当に大変な仕事だと思うのだが、鷹條はその勤務体制については業務上やむなしと思っているらしい。

「体力ならある」
 亜由美の心配が顔に出てしまっていたのだろう。そう言ってふっと笑った鷹條に、その日十分に体力があることをベッドで思い知らされた亜由美だ。


 
 食事に行こうと鷹條が連絡をくれた時、亜由美はランチのために会社のリフレッシュルームにいた。そっと席を立って、人気(ひとけ)のないところへ移動する。そしてスマートフォンを耳元に当てた。

 ちょうど亜由美がランチの時間と知って通話してくれたものらしい。当直明けの鷹條は家に帰ってシャワーを浴び、少し仮眠を取ると聞いていたから、そのタイミングだったのかもしれなかった。

 食事に行こうと声をかけてくれることはとても嬉しい。
「私は嬉しいけど、いいの?」

 せっかくの休日にゆっくりしなくていいのか、つい気になってしまう。

『亜由美に会いたい。亜由美は? 俺に会いたくない?』
 そんなの、会いたいに決まっている。
「会いたい……」

『夕方、迎えにいく。実は知り合いが近くでバーをやっているんだよ。簡単な食事も出してもらえるし、一緒に行きたいと思って』
「わ! 行きたいっ!」
『ははっ、じゃあ、後でな?』

 亜由美自身は下戸なのだが、それについても最初に鷹條へ伝えている。鷹條はあまり気にしていないようで、お酒が飲めるお店でも亜由美をどんどん連れて行ってくれるのだ。
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